あれは４年くらい前の夏。会社の昼休みにパラパラ雑誌をめくってた時、まず伝言ダイヤルに 引き込まれるキッカケになった、ある広告に出会ったの。「女性の伝言プロフィール、 無料で聞き放題」。それまで、この手の番組はみんなダイヤルＱ２番組だった。 Ｑ２ってのは、業者にわたる情報料が通話料とセットでＮＴＴから一括請求されるやつ。 この情報料が結構高額だから、バカな高校生の親のもとに目をむくような請求書が届く、 みたいなことが相次いで社会問題化してた。そうしたなか、以前なら聞くだけでも情報料が かかってた女の子の自己ＰＲが、通話料だけで聞けるようになった、という点で画期的 だったわけ。「伝言ダイヤルはしってるけど情報料が高くて」と、縁のなかった男性に とりあえず門を開く戦略。しっかりハマってしまいました、ハイ。折しも夏、妻は子供を連れて 実家へ帰省中（既婚者です、私）という放し飼いの身。聞く分にはタダだと、会社から帰るや 電話をし、スピーカーホンで音出しながら、女性の自己ＰＲをＢＧＭ代わりに食事したり、 くつろいだり。いや、本当にびっくりした。ＯＬや若い人妻、大学生にフリーター、モデルあり 保母さんあり、ナースあり。こんなみんな男性と出逢いたがってるなんて、という思い。 そしてみんなが、すぐに逢ってイタシていただけそうな雰囲気を醸し出してもいたし。 （今思えばサクラ女性だったのでしょう）色香漂うラブコールに、あっさりと打ち負かされる 小さな自制心。返事を一人返し、二人返し、さらにこちらから自己ＰＲを録音すれば、 ２０人を超すリターン。数打ちゃと、全員に返事をし、返事があればまた返事。まさに バカな高校生そのものの日が続いたそのさなか、ＮＴＴから一通の封書が届くわけ。

「貴殿の電話料金が先月に比べ異常に高くなっておりますが・・・」に続き「現在までご使用の 料金は７万６千円」と書かれた通知。外はその日も３５度近い真夏の天気。けれど全身は 吹雪吹雪「氷の世界」。何よりも、これが銀行から落ちれば通帳に記録されて、夏の悪事が 妻に知れるという恐れ。速攻、電話したですよ。震える指で。ＮＴＴへ。 「あ、あの、ぎ、銀行引き落とし、やめたいんですぅ！せ、請求書、勤務先に送れますぅ？ いや送ってください！そうしてください！」　懇願と脅しの訴えに、たぶんこういうことがたびたび あるのか、係の人は、すべてを見通したように、ハイハイと処理してくれました。 結局一人の女性とも逢えぬまま、夏が過ぎ、妻子が戻り、秋も盛りを迎えた頃の給料日。 昼間銀行に行った妻が夜、「ねえ、先月のさあ電話代、落ちてないの」と通帳を見せながら、 残業帰りで遅い食事をとっていた私の横に。一瞬ムセかえりつつ、「な、夏の、ＮＴＴの夏の キャンペーンだったんだよ」　「でもね、基本料金も引かれてないのよ」　「あの、きみ 帰省してたからあれだけど、東京は基本料もサービスしてた、うん、８月は」　「フーン」 決してほかの奥さんには聞くなよと念じながら、二度とやんない、そう固く固く心に誓ったのでした。
（つづく、か・・・？）

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